銀食器とカトラリーの食卓での変化と歴史

以前の記事で貴金属としての銀についてお話しましたが、今回は皆様の生活の中にもある銀食器とカトラリーについて紹介したいと思います。

1.銀食器

銀食器の歴史

紀元前200年頃の古代ローマでは高価な銀製品を使用していました。

当時、銀製品を使用できるのは限られた上流階級の人々だけでした。

しかし、ローマ帝国の衰退と共に銀製品も姿を消していきます。
イタリアルネサンスが栄えた15世紀ごろになると、再び銀食器やカトラリーがイタリアやフランスで出回り、貴族階級の人々の食卓を彩りました。

近世ヨーロッパでは、銀製品は富と権力の象徴でした。

銀はその家庭の幸福度を表すとされており、記念日や大切な日の思い出として銀食器などを飾ることが流行しました。

17世紀後半になると、イギリスの華やかな文化と融合した華麗な銀食器が次々と作成され、一般的な食卓にも溶け込んでいきました。

この時代の銀製品は、アンティークシルバーとして現在でも人気があります。

19世紀のヴィクトリア時代に入ると更なる発展を遂げていき、様々なデザインが生まれました。

現在世界中で愛されているデザインのほとんどが、このヴィクトリア時代に普及したものです。

2.銀食器のデザイン

ロココスタイル

ロココとは貝殻模様や左右非対称の流れるような曲線を主体とした造形で、優雅で女性的なデザインのものを指します。

美しくフェミニンで豪華なデザインのものが多く作られました。

ジョージアンスタイル

シンプルでエレガントな均整と調和のとれたバランスが特徴です。

手の込んだデザインでありながらも華美すぎず、シャープに表現しているものが多くあります。

ヴィクトリアンスタイル

重厚な絹織物や多彩な色彩などのフェミニンなスタイルが特徴です。

現在、世界中で使用されているデザインの原型のほとんどがこのスタイルで作られたといっても過言ではないほど広く愛されています。

 

3.カトラリー

 カトラリーとは食卓用のナイフやフォーク、スプーンなどの総称です。

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ナイフの歴史

中世ヨーロッパにおいて、最も早く食卓用カトラリーとして登場したのはナイフでした。元々は武器として使用していたナイフで肉の塊を切り取ってそのまま食べたことが、テーブルナイフの始まりと言われております。

当時のナイフは先が尖ったものばかりで、食後にそのナイフで歯の掃除をする人が後を絶たなかったそうです。

それを見かねたルイ13世の宰相リシュリューが、ナイフの先を丸くするよう命じました。

そして、1669年に先の尖ったナイフの製造と販売を禁じる法令を出しました。

1770年代にフォークが登場するまで、ヨーロッパでは自前のナイフを使いながら、手で食事するのが主流でした。

スプーンの歴史

スプーン状の道具は、世界各地の遺跡から発見されており、どの地域でもとても古くから使用されていました。

元々は薬品の調合や化粧、調理などに使われており、食事する為の道具ではありませんでした。

14世紀頃になるとスプーンを食事の際に使用するようになりましたが、大変貴重なものだったため、一部の上流階級の人しか持てなかったようです。

一般庶民にまで普及するようになったのは17~ 18世紀頃で、日本でも明治時代以降スプーンが広まりました。

フォークの歴史

フォークの語源はラテン語の熊手を意味するforcaからきており、元々は農具や武器として使用されていました。

フォークが食事に使われるようになるまで、ヨーロッパではスプーンでスープを飲み、ナイフで肉を切って手づかみで食べていました。

初期のフォークは、歯が2つしかなく真っすぐだった為、食べ物に突き刺すにはよかったのですが、すくって口に運ぶには適していませんでした。

イタリアでは14世紀からフォークが使われるようになりましたが、一般に普及したのは

16世紀になってからです。

イギリスでは18世紀に入るまで使用されることはなく、ヨーロッパでも地域によって広がり方にかなり差があったようです。

1770年頃、それまで手づかみで食べていたパスタを、フォークを使って上品に食べるようになりました。

口に入れても安心で、パスタがうまく絡むように、先端を3本歯、4本歯にしたものが考案され、現代の形状になりました。

カトラリーセット(ナイフ・スプーン・フォーク)で使用するようになったのは、19世紀頃と言われております。

銀のスプーン

ヨーロッパでは「銀のスプーンをくわえて生まれてくる」という言い伝えがあります。

これは「裕福な家庭に生まれた恵まれた子供」という意味があるようです。

また、「初めての食べ物を銀のスプーンで食べると一生食べ物に困らない」とも言われています。

そういう歴史的背景から、生まれてきた子供の幸せな将来を祈って銀のスプーンをプレゼントする習慣がヨーロッパでは現在も受け継がれています。

ちなみに、天皇皇后両陛下も生まれてきた際に、銀のスプーンを贈られたそうです。

4.アフタヌーンティーの始まり

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イギリスと言えば紅茶が有名で、アフタヌーンティーは世界中にも浸透しています。

そんなイギリスの優雅な紅茶文化を支えてきたのも銀食器です。

紅茶自体は中国から伝わったもので、宮廷女性たちは毎日のようにお茶を飲んでいました。

1840年頃、公爵夫人アンナ・マリアによってアフタヌーンティーが広まったと言われています。

当時は朝食と夕食しかなく、今で言うおやつの時間にはおなかが空いてしまいます。

マリアはその時間に一人でパンを食べながら、お茶を飲んでいました。

とてもリラックスできるこの時間を皆で共有しようと思い、友達を読んでお茶会を開いたことがアフタヌーンティーの始まりと言われています。

この優雅な文化はあっという間に貴族の間で広がりました。

アフタヌーンティーを開催することは優雅さの象徴となり、そこで使われる銀食器やカトラリー、お花やテーブルコーディネートに至るまで、主催者のセンスが問われました。

そのため、フランス製アンティークカトラリーはとても複雑で美しい装飾を施されているものが多く、そのほとんどが職人の手作りによるものでした。

また、茶葉を入れる専用の容器や、茶葉をすくう為だけのスプーンも銀で作られており、いかにエレガントで上品に見えるかを求めていました。

当時の階級社会であったヨーロッパでは、上品に見せることができる美しい銀食器やカトラリーは必須アイテムだったようです。

この時代に作られたアンティークシルバーやアンティークカトラリーは現在でも人気があります。

テーブルにティースプーンがひとつ加わるだけでたちまち華やかな雰囲気になります。

皆さまも自分だけの銀食器で優雅なティータイムを過ごしてみてはいかがでしょうか。

 

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